カラオケでサビの高いところに入ったとたん、あごが上を向いて、喉のあたりがぐっとせり上がる。声はどんどん細くなって、最後は絞り出すような形になる。あの感じ、なんとかしたい。
喉仏を下げると声が変わるらしい。そう聞いて、あくびの形をまねたり、ため息みたいに声を出したりしてみても、下がった実感はいまひとつ。そもそも下がっているのかどうかも、自分では分かりません。
しかも調べていくと、「もっと下げなさい」と書いてあるページと、「下げようとしてはいけない」と書いてあるページが両方出てきます。真逆のことを言われて、どちらを信じればいいのか分からなくなります。
どちらが正しいかを決めるより先に、自分の喉仏が今どう動いているのかを、指で確かめてみます。
高い音になると、喉仏がぐっと上がってしまう
音が高くなるにつれて、喉仏があごの下のほうへ持ち上がってくる。これは多くの人に共通して起きる、体の自然な反応です。高い音を出そうとすると喉のまわりの筋肉が強く働いて、喉仏ごと引き上げるような動きになりやすいためです。
喉仏はどこにあるのか、指で確かめてみましょう
のどの中央あたりに指を軽く当てて、つばを飲み込んでみてください。上下にコリッと動く部分が喉仏です。女性は男性ほど出っ張っていませんが、同じように動きます。
指を当てたまま、低い「あー」から高い「あー」へ、ゆっくり音を上げてみます。指の下で喉仏が上へ移動していけば、それが今のあなたのふだんの動き方です。
下がっているときは、どんな感じ?
下がった状態の見本は、あくびが出かかった瞬間です。喉の奥が縦に広がって、奥のほうがひんやりする感じがあります。そのとき指の下の喉仏は、下に落ちています。
反対に、つばを飲み込む瞬間がいちばん上がった状態です。この2つを何度か行き来してみると、上と下の幅が体で分かります。歌っているときの喉仏がどちらに近いか。目安はそこです。
上がったままだと、声はどうなる?
喉仏が上がったままの状態で声を出し続けると、喉が締まったような感覚や、声が詰まるような感覚が出てきます。声が細くなる。響きが硬くなる。高い音のところで急に苦しくなる。力めば力むほど高い声がかえって出づらくなるのは、体のつくり上、自然なことです。
この、喉仏が上がったまま喉で押し出すような声は喉声と呼ばれています。
反対に、力が抜けて喉仏が下がっているときは、喉の奥の空間にゆとりが出ます。響きが太めになって、こもらずに落ち着いた声になりやすいです。高い音でも締まりにくいぶん、後半まで声が保ちやすくなることもあります。
「下げなさい」と「下げてはいけない」、どうして真逆なのでしょう
先にひとつだけ。喉仏を下げること自体を、目的にしなくて大丈夫です。喉仏は、まわりの力が抜けてくるとあとから下がってくる場所だからです。
それでも正反対の指導が並んでいるのは、その2つが別々の場面の話をしているからです。
「下げなさい」はこんなときの話
「下げなさい」という指導は、低い音域や、太く深く響かせたい声を求める場面で出てきます。喉仏が下がると喉の空間にゆとりが生まれ、落ち着いた響きを作りやすくなるからです。クラシックの発声では、この方向がはっきり求められます。
「下げてはいけない」が止めたいのはこっち
「下げてはいけない」のほうは、喉仏を筋肉の力で無理に押さえつける動きに向けられています。力ずくで下げた形を作ると喉全体が窮屈になり、飲み込んだような、こもった声になりやすいです。
同じ「下げる」でも、目指している声も、その作り方もまったく別のものです。どちらかが間違っているというより、必要な場面の話と、力で作ろうとした結果の話が、混ざったまま並んでいるわけです。
よく聞く下げ方を試しても、うまくいかないのはなぜでしょう

喉仏を下げる練習としてよく出てくるのは、あくびの形を作る、ため息をつくように声を出す、ハミングをする。このあたりです。どれも喉仏を押し下げる練習ではなく、まわりの力を抜きやすくするための練習です。やり方と、うまくいっているかどうかの確かめ方をあわせて見ていきます。
あくびの形をつくってみましょう
あくびが出そうになった瞬間の口の中を思い出して、その形を作ります。声は出さず、あくびをかみ殺すように、口の奥だけを縦に広げていきます。息を吸いながら3秒ほどかけて広げ、ゆっくり戻す。これを何度か繰り返します。
確かめ方は、喉仏に当てた指です。奥が広がるのに合わせて指の下の喉仏が沈んでいけば、狙いどおりに動いています。
つまずきやすいのは、口を大きく開けること自体が目的になってしまうときです。あごを下げても口の奥が広がっていなければ、喉仏は下がりにくいままです。あごの力は抜いたまま、奥だけを広げる感覚です。
ため息に声をのせてみましょう
うまくいっているときは、声を出し始めた瞬間に喉がふっとゆるみます。その感じを目印にすると、やることは単純になります。
「はぁー」と息を吐きながら、その息にそのまま声をのせます。最初は音程を気にせず、息の重みに声をあずけるように。慣れてきたら、低めの音から少しずつ音程をつけていきます。
息を吐く前に「よし出すぞ」と胸や喉に力が入ると、ただの大きい声になってしまいます。息を全部吐き切ろうとしてお腹に力を入れるのも同じです。ため息は、がんばって吐くものではありません。
ハミングで震える場所を探してみましょう
唇を軽く閉じたまま、鼻から「んー」と声を出します。鼻先や鼻の奥が細かく震える場所が見つかると、喉まわりの力は抜けやすくなります。
鼻の横や唇に指を軽く当てると、震えが伝わってきます。大きな音を出そうとすると、かえって震えは見つけにくくなります。自分にだけ聞こえるくらいの小さな音で十分です。震えを感じられないときは、声が喉のあたりで止まっていることが多いので、音を少し下げて、いちばん楽に響く高さから探し直してみてください。
押し下げになっていないか、指で見分けてみましょう
どれも間違ったやり方ではありません。あくびもため息もハミングも、もともと喉まわりの力を抜きやすくする働きがあります。ただ、それを「喉仏を下に押し下げる作業」に変えてしまった瞬間に、効果は薄れます。
見分けるポイントは、力の向きです。下げようとして喉の外側や下方向にぐっと力が働いていれば、それは押し下げ。あくびのときのように喉の奥がふわっと広がっていれば、力が抜けている方向です。
いつも締まる高さの音を出しながら、あごの下から喉仏のあたりに、軽く指を当ててみてください。首の前に筋が浮き出たり、あご先が固くなったりしていれば、押し下げになっているサインです。下げる練習をがんばっているのに実感がない場合、たいていここでつまずいています。
どれくらい続けたら変わってくる?
まとめて長時間やるより、声を出す前の1〜2分に組み込むほうが続きます。歌う前、話す前、お風呂で声を出す前に、あくびの形を数回とハミングを20秒くらい。それくらいで十分です。
目印は、音の高さより感覚のほうに置きます。締まりはじめる高さが少し上に動いた、同じ音を出しても後半で苦しくならない、歌ったあとに喉が疲れにくい。こうした変化のほうが、喉仏が何ミリ下がったかより当てになります。
一人だと変化が分かりにくいので、始める前と後で同じフレーズをスマホに録っておくと、あとから聞き比べられます。出している最中の自分の耳は、その声に慣れてしまいます。録った声のほうが当てになります。
反対に、やったあとに喉に違和感が残る、声がかすれるという場合は、押し下げになっている可能性が高いです。回数を増やす前に、力の向きを見直してみてください。違和感やかすれが練習のたびに続くようであれば、無理を続けず、専門家に相談してみてください。
喉より先に、力が抜けていない場所があります

喉仏の下げ方を調べると、たいてい喉そのものの動かし方の話で終わります。でも実際には、喉より手前に、力が抜けていない場所があることが少なくありません。
高い音を出そうとすると、喉だけでなく、首や肩、あごにも力が入ります。ここが張ったままだと、喉仏だけをゆるめようとしても下がってくれません。喉は、まわりの場所とつながって動いているからです。
肩が上がっていないか
鏡の前で高い音を出してみてください。息を吸うタイミングで、肩が上がっていないでしょうか。肩が上がったまま声を出すと、首から喉にかけての筋肉も一緒に張ってしまいます。
目で分かりにくいときは、両肩に手を置いたまま歌ってみると、上がる瞬間が手のひらから伝わってきます。
あごが前に出ていないか
あごの位置も見てみましょう。高い音になるほど、あごが前に突き出たり、上を向いたりしていないでしょうか。あご先に力が入ると、その下にある喉仏まわりも一緒に固まりやすくなります。
鏡に対して横向きに立って見ると、前に出ているかどうかが分かりやすくなります。
喉そのものが固まって動かない感じが強いなら、喉の力が抜けない理由のほうが近い話かもしれません。
肩とあごをゆるめてから、同じ音をもう一度
喉仏に指を軽く当てたまま、さっきと同じ高さの音を出します。喉仏がどれくらい上がるか、指先で覚えておきます。
そのあと、肩を一度すとんと落として、あごの力をゆるめてから、もう一度同じ音。指の下の動きが変わったなら、喉仏がまわりの状態に引っぱられていた、ということです。
鏡と指で一人でできるのは、だいたいここまでです。首や肩の力みは、立ち方や体重のかけ方といった、もっと大きな体の使い方から来ていることが多いからです。声を体の側から組み立て直す全体の流れは、発声の順番の記事にまとめてあります。
押し下げた喉仏と、下がってきた喉仏は違います
喉仏を下げる練習の多くは、「喉仏をどう動かすか」から入ります。でも、ここまで見てきたように、喉仏は首や肩、あご、さらには姿勢や呼吸ともつながって動いています。
肩とあごの力が抜けた分だけ、喉仏は動ける幅が広がりやすくなります。
肩が上がれば、首から喉にかけての筋肉が一緒に張ります。あごに力が入れば、その真下の喉仏も引っぱられます。逆に言えば、その2か所がゆるむだけで、押し下げなくても下がりやすい状態に近づきます。
気づけるだけで、変わることがあります
肩やあご、喉仏まわりの力みに気づけただけで、声の出しやすさが変わったという方がいます。無意識に入っていた力は、気づいた時点でゆるみはじめることがあります。
では、その力にどうやって気づくか。ここがいちばんの分かれ道になります。
よくある質問
歌うときの喉仏は、どのあたりにあるといいのでしょう
決まった正解の高さがあるわけではありません。求める声の響きや音域によって、ちょうどよい位置は変わってきます。
ふだん話しているときの高さから大きく動いていなければ、まず気にしなくて大丈夫です。位置そのものを気にしすぎるより、そこに余分な力が入っていないかを確かめるほうが手がかりになります。
カラオケの直前に、何をしておくといいですか
部屋に入ったら、まず肩を何度か回して、すとんと落としておきます。荷物を持って歩いてきた直後は、肩が上がったままのことが多いからです。
1曲目は、自分がいちばん楽に出せる高さの曲を選びます。声が出る前に高い曲を入れると、最初から喉で押す形になって、その形のまま後半まで進みがちです。曲の合間に、あくびをかみ殺す形を数回はさむくらいで十分です。
女性でも喉仏は下げられますか
喉仏は男性だけでなく女性にもあります。男性ほど大きく目立たないだけで、高い声で上がったり低い声で下がったりする仕組みは変わりません。下げ方や力の抜き方の考え方も、男女で特に変わりません。
場所が分かりにくいときは、のどの中央を指で軽く触れながらつばを飲み込んでみると、動きを確認しやすくなります。
喉だけでなく体から変えてみたい方へ

喉仏の位置は、喉だけをどうにかしようとするより、首や肩、あご、体全体の力みが抜けたあとのほうが変わりやすい場所です。順番が逆になると、また押し下げの練習に戻ってしまいます。
まずは鏡と指で試してみてください。そのうえで、高いところで締まる感じが変わらないようなら、喉の外側を見てみる番です。
とはいえ、抜けていない力に自分で気づくのは、そう簡単ではありません。力んだ状態が当たり前になっていると、それが力みだと分からないからです。言葉で説明されるより、実際に体を通して感じてみたほうが早いこともあります。
立ち方が変わると声の出方がどう変わるのか、その場で聞き比べていただく時間をご用意しています。喉の練習を増やす前に、体のほうから見直してみたい方はこちらをどうぞ。

